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全国小劇場ネットワーク会議「はじまり」をふり返る【3】

沖縄・那覇、神奈川・横浜と回を重ねた全国小劇場ネットワーク会議。第三回は前回からほぼ一年後の2019年8月20日(火)、21日(水)、京都で開催された。会場は同年6月22日(土)・23日(日)に、こけら落としをしたばかりのTHEATRE E9 KYOTO。京都駅の東側、鴨川河岸に瀟洒な佇まいを見せる生まれたての劇場で、ここにもまた、特別の「物語」があるので少々寄り道を。

 古典から最新のアートまで、幅広く懐深く受け入れる京都の風土。それを象徴する小劇場やライブハウスなど、小さくとも個性的な創造空間がいくつもあるが、中でも京都舞台芸術界の精神的支柱とも言うべき民間小劇場がアトリエ劇研だ。仏文学者・波多野茂彌氏が1984年に自宅を改装してアートスペース無門館を開き、96年にアトリエ劇研と改称。60~80席ほどの小空間ながらディレクター(芸術監督)を置き、技術・制作それぞれのスタッフも擁する充実した環境で、稼働率も高く、年間来館者は1万人にものぼっていた。だが2014年、劇作家・演出家のあごうさとしは新ディレクターとして就任した直後に、家主から閉館の打診を受ける。

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アトリエ劇研 写真:前谷開

 劇研は15年11月に閉館を発表(2017年8月末閉館)。しかも京都では、時も近しく劇研を含む4か所の創造空間が閉館することに。危機感を感じたあごうは、既に決定していた団体の公演や劇場企画などをディレクターとして遂行しつつ、狂言師・茂山あきら、現代美術家やなぎみわ、元ロームシアター京都支配人・蔭山陽太ら想いを同じくする人々と17年に一般社団法人アーツシードを立ち上げる。

 物件探し、近隣住民への説明会や官公庁との交渉諸々、資金集めのクラウドファンディング、ネーミング・ライツ(命名権)に関する取引……。民間小劇場を生み出すため、どんな過程があり、何が必要かを具体的かつ詳細にあごうと蔭山が語り、さらに「100年続く劇場」を標榜して何を目指すかまでを示す100分超が、会議初日のハイライトだった。

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 二度に亘って行ったクラウドファンディングには10~90代まで述べ1100人超が参加し、1億円近い寄付が集まったこと、命名権を2千万円で購入した寺田倉庫株式会社がアーツシードがつけた劇場名= THEATRE E9 KYOTOを尊重し、そのままにしてくれたこと、建物全体の改装・利用をアーツシードだけでは負いきれず、2階のコワーキングスペースと1階別棟のカフェの整備・運営には株式会社La Himawariの協力を得たことで道が拓けたこと、それでも約5千万円の借入を抱えてのスタートになることなど、生々しく語られる「開館までの道のり」は、下手なドラマや映画よりもスリリングかつ刺激的だった。

 こけら落とし後、新劇場での芸術監督就任後初の自作上演となる7月末の音楽舞台劇『触角の宮殿』観劇後に実施したインタビューで、あごうに「開場までの2年余、劇場づくりの山場はどこか」と訊くと、「はじめに劇研がなくなるというどん底があり(笑)、最高峰は建築基準など6つほどクリアしなければならない法的手続きの最後の一つに、なかなか許可が下りなかったことでしょうか。実は、こけら落としの前日にやっとGOが出たような状況で、あれはまさに英断。京都市の男気を感じました(笑)」という答えが。続けて「演劇だけやっていたら、一生会うことのなかった業種、人種の方々とこの2年で集中的に会い、話し、価値観が覆るような体験が何度もありました。また寄付に関して言えば、企業協賛や助成も大きいものの、比べると個人からの寄付総額のほうが大きかったんですよね。目的や志を持って社会と関わる方、劇場を必要なものと認めて下さる方の多さが数字で裏づけられたことに勇気をいただいたし、結果、僕のなかで舞台芸術でできることのビジョンも広がった。E9はそんな、市民力で立ち上げられた劇場なんです」と語ったその言葉は、今の、全国小劇場ネットワークが取り組む活動に直結していると、書きながら改めて気づいた。

 第3回会議のプログラムはこのE9開館までの顛末を、あごうと、支配人となった蔭山の二人でアツく語った冒頭から、一般社団法人芸術と創造代表理事・綿江彰禅氏による「芸術の創造環境をめぐる展望」と題した、国内の文化芸術支援に対する可能性と限界に関する分析&レクチャー、遠山正道氏とクリエイター集団PARTYによる「アートの次のあり方をつくる」プロジェクトからリリースされたアーティスト支援アプリ「ArtSticker」の仕組みや利用法の解説など、劇場運営の場で即実践・活用できる情報が目白押し。

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続く二日目は、兵庫県神戸市新長田でNPO法人DANCE BOXが運営する、コンテンポラリー・ダンスを中心とした舞台芸術拠点ArtTheater dB神戸の成り立ちと、地域に深く根差した活動の展望を、エグゼクティブ・ディレクターの大谷 燠氏が語る基調講演からスタート。ランチ・ミーティングなど挟みつつ、午後は今会議の初回からの懸案事項=民間小劇場間での作品のやりとりを可能にする新たなマーケットづくりについて、17都道府県の民間小劇場22館から延べ54名の参加者間での話し合い。

これが、なかなかに白熱した議論になり、規模も運営年数もそれぞれに異なる民間小劇場が、目的を同じくするとはいえ歩調を合わせるには、根を詰め言葉を尽くす必要がまだまだあるのだと、傍から見るだけの立場からも考えることが多い時間だった。

もっとも最終的には参加者・団体から有志を募って部会を立ち上げ、民間支援の開拓や新しい収益事業の模索に、連携して取り組んでいくことを全員で確認。事務局の設置や、ネットワーク内での劇場情報の共有と整理、外部への情報公開など細かな事項にはさらなる検討が必要な状態だったが、組織としては一歩前進という手応えが感じられた、京都の濃密な夏に引けを取らないアツい二日間となった。

 理想や夢を語り合う場だった第一回、互いの顔がしっかりと見え出し「仕事の話」に具体性が見えて来た第二回、そして日本のアートシーンに新たな潮流をつくる第一歩を予感させた第三回。

 回を追うごとに進化&深化する、全国小劇場ネットワークの在り様、それが向かう先に期待しかなかった2019年盛夏の頃には、半年後に未曽有の天災に見舞われることなど欠片も想像していなかった。参加者の誰一人として。

 取材者として振り返りではなく、リアルタイムに追いかけ、記録することとなる2020年から先のことは、また次の機会に。

Text:尾上そら


CROWDFUNDING

全国小劇場ネットワークでは緊急事態宣言後の劇場の「再開」を具体的に想定し、どう「再開」していくのかを考え実践するため、クラウドファンディングに挑戦いたします。(2020年7月31日をもって終了いたしました。)

クラウドファンディング|全国小劇場ネットワーク

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